2026/9/4更新

制御工学分野の数学記法と用語

前書き

本ページは,微分方程式(少し差分方程式も?)を扱う非線形制御または現代制御分野で使用する記法を紹介するものです.初学者が論文を読む際に何を言っているのかさっぱりわからないという状況になりやすいとの思いから,私なりに説明を加えます.あくまで個人の理解に基づく説明であることに注意してください.指摘や議論を歓迎し,間違いに気づけば直します.

著者ごとに表記法が異なることも多くありますので,論文や教科書を読む場合はその文中の説明をしっかり読んでください.多くの場合記号などの説明があります.論文中で,全ての記法に説明があることはまずありません.これくらいは説明しなくてもわかるよね?という暗黙の了解が存在します.そこでのつまずきに手を差し伸べられることができれば幸いです.みなさんが文書を書く場合はどうか丁寧に記法の説明を書いてください.

微分(または差分)方程式とは

常微分方程式 orthogonal differential equation (ODE) が制御分野ではあれこれ議論されます.またの名をequation of motion (EOMというのは見たことない),dynamical equation,dynamicsと言います.時間(変数はほとんど常にtt)についての微分方程式です.頻出するのは

x˙(t)=f(x)+g(x)u(t)\dot{x}(t) = f(x) + g(x) u(t)

です.状態変数をxxで表し,制御のための入力をuuで表します.x˙(t)\dot{x}(t)はxxのtt微分dxdt\frac{dx}{dt}を表し,ある時刻ttのt−xt-xグラフ上での傾きが右辺ですよ.という意味です.ODEはある瞬間の性質を表し,それによってxxの時間に対するグラフが作られます=運動が決まります.実際に使う場合はffやggなどの定義が書かれますが,省略します.極論をいえば,制御工学ではいろんな微分方程式の状態を0に向かわせる入力の作り方を考えます.

連続的な時間でなく飛び飛びの場合は差分方程式で表される.意味するところは概ね同じ.

記号リスト

記号 説明
f: R×Rn→Rf:~\mathbb{R}\times \mathbb{R}^n\to \mathbb{R} 関数の定義.ffはR\mathbb{R}の元とRn\mathbb{R}^nの元を引数にとってR\mathbb{R}の元を返す関数です.元=要素.集合関連参照.例えばt∈Rt\in\mathbb{R},x∈Rnx\in\mathbb{R}^nの場合のf(t, x)f(t,~x)など
f(x(t))f(x(t)) ffはx(t)x(t)によって定まる関数((t)(t)は省いてf(x)f(x)としがち).f(t, x)f(t,~x)とすれば,例えばf=t+xf=t+xなど,ttにも(xxを介した暗にでなく)陽に依存することを表す
f∘g∘h(x)f\circ g\circ h(x) f(g(h(x)))f(g(h(x)))のこと.カッコが多く書くのが大変な場合
∀\forall 任意の・・・について.x=f(x), ∀x∈Xx=f(x),~\forall x \in X=「XXの元である任意のxxについて,x=f(x)x=f(x)を満たす」
∃\exists 存在する.∃x>0\exists x>0 such that x=f(x)x=f(x)=「x=f(x)x=f(x)を満たすx>0x>0が存在する」
:=, ≜:=,~\triangleq 定義であることを明確にする時に使う.==と同じと思っても良い
→\to x(t)→0x(t)\to 0, for t→∞t\to \infty=「ttが非常に大きくなれば,xxは非常に小さくなる」
ddt\frac{d}{dt} ttによる微分,ddは時間微分の時だけ使う
∂∂x\dfrac{\partial}{\partial x} xxによる偏微分,xxがベクトルなら勾配.ffとxxがベクトル値でもddtf(x(t))=∂∂xf(x)dxdt\dfrac{d}{dt}f(x(t)) = \dfrac{\partial}{\partial x} f(x)\dfrac{dx}{dt}が満たされるように定義される
∣x∣| x| xxのユークリッド Euclidノルム.∣x∣∞| x|_\inftyなら最大値・無限大ノルムなど.有限次元ベクトルのnn-ノルムと,時間関数としてのLnL^nノルムがあるので注意.行列なら暗黙的に使うとEuclid誘導ノルムを表す
$\dfrac{\partial f(z)}{\partial z}\Biggr _{z=g(x)}$
such that, s.t. ・・・となるような(を満たす)・・・.少し上参照
almost all ほとんど全ての.x(t)x(t) is continuous for almost all t∈[0, ∞)t\in [0,~ \infty )=「ほとんど全てのttについてxxは連続」不連続点の集合(xxが不連続になる区間の集まり)のLubesgue測度が0であることを意味する.要約すると,区間[0, ∞)[0,~ \infty )の中で,有限個の(幅を持たない)点でしか不連続にならない.不連続点が100個だろうと1000個だろうとほとんど全てで連続と言う
iff, if and only if 必要十分条件
region of interest 関心領域,いま注目しているもの
i.e., e.g., s.t. すなわち,例えば,を満たす
et, exp⁡(t)\rm{e}^t,~\exp(t) 指数関数.eeと見間違えないように注意を払おう
スカラ scalar 実数 ベクトルと対比するとき実数のことをスカラと呼ぶ.ベクトル空間の定義Wikipedia参照にスカラ乗法が出てくるので特別扱いされている.スカラは1次元ベクトルだと思って良いし一元的にそのように扱われるが,それを定義とすることはできない.複素数でも良いが出番は多くない
ベクトル vector nn次元実数 実学上は実数を並べたもの.ベクトル空間の元がベクトルであり,ベクトル空間の線形写像として行列が定義される.思ったよりやりがちなので念の為,スカラもベクトルもベクトルで割れません.個人的に印象深い「ベクトル=矢印=向きと大きさを持った量」という説明は線形代数の学習で陳腐化しているのではないか
汎関数 スカラ場 f: Rn→Rf:~\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}のような,ベクトルを引数にとってスカラ量=実数を返す関数.スカラ値関数でも良い.functional,scalar field
ベクトル値関数,ベクトル場 f: R→Rnf:~\mathbb{R}\to \mathbb{R}^nのような,ベクトルを返す関数.行列を返せば行列値関数,集合を返せば集合値関数.vector field, vector-valued function
CnC^n級,class-CnC^n関数 関数の滑らかさを表し,nn回微分可能であることを意味する.十分滑らかといえば,数えてないけど必要な回数微分可能である,という意図.多くの場合class-C∞C^\inftyは必要ない.べき乗関数や定数関数など,何回か微分して0でも微分できさえすればよい
解析関数 analytic function class-C∞C^\infty関数のこと.Taylor級数展開できることを意味している.ffは解析的であるとする.など
class-K\mathcal{K},class-K∞\mathcal{K}_\infty,class-KL\mathcal{KL}関数 汎関数の性質.まとめて比較関数 comparison functionと言われる
Lipschitz連続性 連続性の一種.Lipschitz連続なら(通常の)連続

行列関連

記号 説明
AT, AT, A⊤A^T,~A^\mathrm{T},~A^\top 行列AAの転置行列
A+, A†A^+,~A^\dagger 行列AAの擬似逆行列
A>0, A≥0A>0,~A \geq 0 実対称行列AAは(半)正定値.AAの固有値が正(対称なので固有値は実数).任意のベクトルxxに対してxTAx>0x^T Ax>0を満たす.<, ≤<,~\leqもある
λ(A)\lambda (A) AAの固有値.λmax⁡(A)\lambda_{\max} (A),λmin⁡(A)\lambda_{\min} (A)で最大,最小固有値
det⁡A\det A AAの行列式,determinant

集合関連

記号 説明
[], ()[],~() 区間=実数集合.t∈(0, 5]t \in (0,~5]ならば0<t≤50< t\leq 5
{}\{ \} 数式内で中括弧としてまとまりを表すこともあるが,ここでは集合表記のこと.$X:={ x~
∈\in 集合の元=要素を表す.x∈Xx\in X=「xxはXXの要素です」,f∈Ff\in F=「ffは関数の集合・関数族の要素です」
R\mathbb{R} 実数空間全体,Rn\mathbb{R}^n:nn次元実数空間全体であり縦ベクトル,Rn×m\mathbb{R}^{n\times m}:nn行mm列の実数行列全体.R+, R≥0\mathbb{R}^+,~\mathbb{R}_{\geq 0}として正の実数,非負の実数を表すことも
N, C\mathbb{N},~\mathbb{C} 自然数,複素数
⊂, ⊆\subset,~\subseteq 部分集合の関係,一致する場合もあるかどうか
∩, ∪, ⊕, ∖\cap,~\cup,~\oplus,~\setminus 共通部分と和集合と直和(共通部分がない時の和集合)と集合の減算